raingoesup

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水源郷

家を出るころにはやはりもうかなり暗くなってしまっていた。どこも行く場所がないなあ、と思っていたが、思いつきで図書館へ行った。数年前に建て替えられ新しくお洒落な空間となっており、待望の(誰が?)自習用スペースもあるという。今っぽい、というかまさに今でしかない中学生だか高校生だかが楽しそうにやっている。新しい人たち。旧図書館の少し暗く、古く、静かで、とても落ち着いたあの森のような雰囲気も結構好きだったけど。今はもう存在しない空間。置き換わっている。どちらかというとまだ自分はあの中に生きているような気さえする。

入口のところはカフェがあって、それも来た目的の一つだった。ドリンクは館内持ち込みOKとある。脇の小部屋では絵本などに車の絵を描いている人の原画展がやっていた。それらをとりあえずスルーして中に入る。哲学書、詩集、図鑑、精神などを見た。まどみちおの詩集がとても良くて、借りることにした。それからなんとなくめぼしいと思える本がいくつか見つかって、ピックアップしていく。悩みながら。魚の図鑑にするか、ウミウシの図鑑にするか迷って、結局ウミウシ。魚は確実に好きではあると思うし、精神に作用しやすいと思ったが、雑念も沸きやすいと感じたので。図書カードを作り直す。受付のところは透明シートに遮られて、その向こうの空間の下にある机で名前を書くのが少し困難だった。コミュニケーションも、その壁によるものか、自分によるものかはわからないが、少しおぼつかないながらも、ありがとうございます、多少は常識の片鱗を脇にかかえた人のようなそれを放つことができた気がして、事なきを得た。本を鞄につめて、カフェのところまで戻ったけれど、もう閉まっていたようだった。外へ出て自販機でボトル缶のコーヒーを買って、もう一度奥のほうの閲覧席まで戻って、座って、コーヒーを飲みながら本を読んだ。比較認知科学の本を読みかけて、やっぱりごちゃごちゃと知を見せられるのは今の気分ではないなと感じてやめて、詩を読んだ。閉館時間が迫っていて、完全に落ち着けたようなことはなかったが、それでも久々に、いい時間だったと思う。このようなことを、定期的に拡大しながら繰り返し、そうやって風景を置き換えて生きていけたらなあ、と思う。手近な目標が見つかってよかった。できるとはあまり思えていないのだけれど。